「伝説を作りましょう」
夕食の席で部長が言いました。
現地に着いたその日、すでに移動疲れでヘロヘロの私には、何のことだか分かりません。
「伝説、ですか」
アホみたいにオウム返す私に、部長は笑顔で頷きます。
「そうです。遠慮なくバンバン商談して下さい」
なぜ商談が伝説になるのか。
首を傾げる私に、部長は笑顔を貼り付けたまま続けます。
「Aさんは以前、某ヨーロッパで○○(←商品名)を40フィートのコンテナ4本も買い付けて、3本をも余らせて未だに倉庫でホコリを被ってます」
ちなみに40フィートのコンテナは、長さ40ft(12.192m)×幅8ft(2.438m)×高さ8'6"(2.59m)という結構巨大なサイズです。
そんなものいっぱいの商品を3本分も在庫にしたのか……と、遠い目になる私。
「Bさんは、売れない○○を懲りずに何度も仕入れて、ページ単価を軽く下回る売り上げを何度も叩き出しました。今でも倉庫の一部を占領して発送の人間の間では語りぐさです」
……Bさんが仕入れた○○のページのレイアウトを担当したことがありました。
確かにアレは売れなかった。
しかし、誰も止めなかったのか? と思ったら社長が仕入れをけしかけていたらしい。
「Cさんが提案した○○は、……」
と、それからもいくつか分かり易すぎる具体例が羅列されました。
何その負の伝説。と、絶句すること数回。
もはや、おいしくはあるが味付けが濃すぎる料理のあれこれの味が分からなくなってきた頃、ようやく部長の怖すぎる昔話は終了しました。
「だから、あっきーさんも頑張りましょう」
だからの意味が分かりません部長。
むしろそんな努力は全力で却下したい。
つーかそんな不名誉な伝説作ってどーすんですか部長、私の首だと思って好き勝手言ってませんか、というか伝説になりそうな商談はじめたらお願いだから止めて下さい……。
不安しか残らないような前置きの後、翌日の打ち合わせを終え、部屋に戻りました。
うん、とりあえず本読んで寝よう。
あっさり現実逃避と決め込んで、風呂入って寝ました。