作法というか至上命令だったというか。
寮生活で身に付いた自慢できない特技のひとつは、確実に「早食い」でございました。
合い言葉は『
すべての行動は先輩より早く』
例外はありません。
 | 食堂はこっちよ。次からは食事の放送がなったら全力疾走してね。 絶対に先輩より後に食堂に入ることがあっては駄目。 |
 | はい。 ……って先輩、中に入らないんですか? |
 | 後ろから他の先輩が歩いてきているでしょう。 彼女たちが食堂に入り終わるまで、ここで扉を開けたまま待っているの。自分より上の先輩に扉を開けさせるのは許されないわ。次からはあなたがやるのよ。 |
 | は、はい。 (なんだかすごいところに来てしまったきがしてきたなぁ。) |
(だいたいどの寮生もこのあたりでそう思います……。
特に冬は開け放すと中も寒くなるんですけど、
常識は早めに捨てた方が楽に息ができます)
 | 席は学年ごとに別れているから、食事は同級生と気兼ねなく食べてちょうだいね。 でも、おしゃべりして食事時間が長くなるのはまずいけれど。 |
 | 頑張ります。 ……でも私、食べるのすごく遅いんです。 どうしよう。 |
 | そればかりは慣れてとしか言えないわね。 初めの1年は食事を残すのも許してもらえないから。 がんばって。みんな通った道よ。 |
 | 参考までに……皆さんどれくらいの時間で食べるんですか? |
 | 朝食と昼食は5分くらいね。 夕食は10分前後。 それを過ぎると上級生のテーブルから催促が来るから。 |
 | ご、ご、5分ですか? 夜でも10分? 毎日早食いってことでしょうか。 |
 | 私もどうかとは思うわよ。 というかね、毎年毎年、先輩より早く食べなさいって、新入生は叩き込まれてせかされ続けるでしょう? 初めは胃も壊すけど、1年も続ければ早く食べられるようになるわ。 上の学年になったら誰も怒らないんだからゆっくり食べれば良いんでしょうけど、なんていうか、1年も早く食べないと早く食べないとって己に言い聞かせ続けると、早く食べることになんか使命感を感じるようになるのよね。 というわけで、がんばってね、先生あとはよろしく。 |
 | はいはい。 じゃあAさん、席について。 みんな揃ったところでいただきましょうか。 |
(寮に来て初めての昼食は、毎年恒例で小振りな鯛の尾頭付きと決まっています。
しかしそこのあなた、
意外に豪勢だなどと思わないように。)
 | って、あれ、この鯛、箸がたたない……。なんで!? 身がほぐれない!! 急がないといけないのに何なのよこれ!? もうっ!! ……っ、あ…… |
 | あら、急ぎすぎですよ。 お箸、折れてしまいましたね。 ……寮の焼き魚は相対的に固いのよ。気をつけて。 |
 | ……そんな、折れてから言われましても。 そもそも、なんでそんなに早く食べないといけないんですか? |
 | それはもう仕方がないと言うか。 一斉にいただきますの挨拶をして、一斉にごちそうさまをするでしょう。 で、ごちそうさまをするためには全体の8割の人が食べ終わっていないといけないことになっているのです。 |
 | ……規則で? |
 | そう、規則で。 ……魚の固さに新入生が驚くのは毎年のことですけど、お箸を折った生徒は初めてみましたよ。 |
 | そ、そうですか。以後気をつけます……。 |
寮の食事というのは、基本的に一番、量を食べる男子生徒を基準にカロリー計算が為されております。しかも、さほど予算がないものですから、
「足りないカロリーは油で補え!」と言わんばかりに油モノが多かったのです。
しかも油、古いし……。
小学校の給食の方が絶対においしいです。
また、学校に行く時はお弁当を作ってくれるのですが、見事に緑の野菜が入っていません。ご飯と茶色い油モノで構成された弁当は通称「
二色弁当」……絶対に栄養バランスは予算のやりくりの次に回されてたと思います。
ちなみに鯛に箸がたたないのも新入生の箸が折れたのも
実話です。
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